3連単は最も有利な賭け式だ

コインゲーム

以下のようなゲームを考えよう。主催者はコインを1枚投げてプレイヤはその表裏を当てる。コインに細工はないので表裏はそれぞれ1/2の確率で出現し、このことは皆知っている。このゲームは競輪競馬と同じように、投票券を売ってその売上から25%を控除して残りを的中者に購入額に比例して分配する。あまり面白くなさそうなゲームだが、多数のプイヤが参加していると仮定する。発売中は途中のオッズ表示のサービスがあってそれを見ながら投票できる。

このゲームは投票者が皆コインの表裏の出現確率を知っているので、表裏のどちらの投票券も 2 * 0.75 = 1.5倍の配当になり、その回収率の期待値は表裏とも0.75になる。従って、このゲームを繰り返し続ければ誰も勝てないことになる。

さて、このゲーム、実はたまに表が出やすいコインが使われる。投票者には秘密にされているが、ある投票者Aがこれに気付いた。発売に先立って行われる「コイン紹介」のときわづかな外見の違いを見破る方法を見つけたのだ。調べるとこの特殊なコインは60%の確率で表が出ることが分かった。

そこでAは、コイン紹介で通常のコインが振られると分かったときは投票せず、表が出やすいコインが振られるときのみ表に投票することにした。他の投票者は表が出やすいコインが振られることを知らないので、表の投票券の配当はやはり1.5倍になる。表の出る確率は60%なので表の投票券の回収率の期待値は、1.5 * 0.6 = 0.9 となる。Aは他の投票者より良くコイン投げの結果を予想できるので、期待回収率が0.9と高くなった。しかし控除率25%の壁は高く利益を得るには至らない。

次に、やり方を少し変えた以下のようなゲームを考える。今度はコインを2回投げ、その表裏を2回とも投げた順に当てるものとする。投票券は、表-表、表-裏、裏-表、裏-裏、の4種類が発売される。さっきの1回投げゲームと同様に、コインは表裏とも1/2の確率で出現するが、たまに表の出やすいものが使われる。控除率も同じ25%である。

この2回投げゲームに対しAは、コイン紹介で表の出やすいコインと分かったときのみ表-表の投票券を買うことにした。このときの回収率の期待値を考えてみよう。A以外の投票者はコインは公正だと思っているので4種類の目はどれも同じ確率と考えるため、投票券の配当はどれも 4 * 0.75 = 3.0 倍 となる。表-表となる確率は、0.6 * 0.6 = 0.36 だから表-表の回収率の期待値は、3.0 * 0.36 = 1.08 となる。1回投げゲームより高い回収率となりしかも100%を越える値が得られる。すなわち、Aは控除率に打ち勝って長期的に利益を出すことができる。

  • 2つのゲームはコインの表裏を当てるという点で本質的には同じゲームである
  • どちらのゲームも同じ控除率である
  • Aが使っている予想能力はどちらのゲームでも同じである

にもかかわらず、Aは2回投げゲームの方が1回投げゲームより良い回収率を期待できる。この結果はちょっと不思議な感じもするが、上で行った簡単な計算により明らかである。2回投げゲームの方が、コインの目の出現確率を正確に予測することに対して、より敏感に回収率に影響を与える構造である、と解釈することができるだろう。

最後に、この2つを併せたゲームを作ることができることを指摘しておく。2回投げゲームにおいて、1回目のコイン投げの結果のみについての投票券を発売すれば良い。このゲームでは2回投げを予想する投票と1回投げを予想する投票の2つの賭け式が存在することになる。両者をそれぞれ、2連単、単勝と呼ぶことにする。このゲームで考えれば、Aは単勝より2連単の方が有利と言うことになる。さらに単純な拡張で、3回投げて3連単を作ることもできる。この3連単ではAはさらに有利でその期待回収率は、8 * 0.75 * 0.6^3 = 1.296 となる。

競輪における賭け式

長々と架空のコインゲームについて述べて来たが、これは競輪を始めとする実際のレースギャンブルの賭け式においても、単勝より2連単、さらには3連単の方が、優れた予想能力を持つ投票者にとって有利であることを主張するためである。

レースにおいて1着を当てることが、コインゲームにおいて1回目に投げられたコインの表裏を当てることに相当する。2着を当てるのは2回目に投げられたコインの表裏を当てることになる。レースでは車数が多い、各着の車番は異なる、各車番の来る確率が主観的であるなどの違いはあるが、コインゲームと基本的には同じ構造をしていると私は考える。すなわち、各車番が各着を取る確率をより正確に予測できる投票者は、単勝よりも2連単さらには3連単の方が良い回収率を期待できる。

3連単が存在するにもかかわらず、2連単を買う投票者は3着を当てる権利を放棄している。その分だけ予想能力を使うことができないので、優れた予想者にとって2連単は不利であるとも言える。このことは他の賭け式でも同じである。単勝は2、3着を当てることを放棄してるし、3連複は1-3着の順番を当てることを放棄している。現在の競輪において3連単は言わば分解能の最も高い賭け式であるから、予想能力を最大限に発揮できることになる。一般に、レースの予想という行為に対して、より多くの選択肢を与える賭け式が、能力の高い者にとって有利になると考えられる。

以上、3連単は最も有利な賭け式であることを述べたが、常にそうではなく例外がある。例えば投票者が1、2着を当てる能力は高いが3着を当てることが不得意な場合、3着を当てることは放棄して2連単を買った方が良い場合がある。3着を当てることが平均的投票者より下手なら3連単を買うことで期待回収率を下げてしまうと言うわけだ。だが、3着だけ当てる能力が低い投票者というのもあまりないと思うので、これは稀な場合だろう。

また、もうすぐ始まる重勝式も同様に有力で、こちらの方がコインゲームにより近い構造の賭け式だ。5、7重勝では3連単よりはるかに多くの選択肢がある点もより有利である。

コメント

この理論は、FrontRunner - 加島隼人のhatenadiaryの下記エントリにあるものを紹介した。
3連単はバーゲンセールだ
3連単はバーゲンセールだ2
コインゲームは私が理解しやすいように考えたものだが、リンク先の説明の方が分かりやすいかもしれない。大元のアンドリュー・ベイヤー「競馬探求の先端モード」は未見であり、私の解釈に誤りがある恐れがあることを承知願いたい。

理論はこれで良いとして、実際の車券において3連単が有利になるかは実証的な研究が必要だ。詳細は述べないが私の見解は肯定である。重勝式は有望だが実施されてみなければ分からない部分も多い。