脚質と成績の関係

競輪において自力の選手と追い込みの選手ではどちらが有利だろうか。追い込みは4角まで自力に連れてってもらえて楽のようだが、捲りが来たら仕事したり競りもあるしそもそも付けた自力が行けないと共倒れになるなど苦労も多い。自力は自分から動くので実力が発揮しやすいが、主導権を取っても後ろにおいしいとこ持って行かれるし、張られたり切替えられたりとやはりデメリットがある。

どっちが良いかは単純には分からないと思うが、データを分析して選手の脚質と成績の関係を調べてみる。

成績評価値

2007年に行われた全レースについてある選手の出走しているレースを全て集める。そのレースの集合に対して成績評価値を得る。成績評価値(以下単に評価値)というのは競輪選手の成績の評価値で述べた、平均競走得点と同じシステムでより正確に勝率を予測できるようしたものだ。この年間の評価値を全ての選手について求める。出走回数が30走に満たない選手は省いており、対象となる選手は3549名である。年間評価値の度数分布は下図のようになる。

平均=6.41、標準偏差=3.58となる。ちなみに順位1位は小嶋敬二で評価値=17.78である。

HB率

次に評価値と同様に年間のHB率を各選手について求める。HB率とは私が作った用語で、最終周回にホーム線またはバック線を先頭で通過したレース数を出走レース数で除したものである。よく使われるB(バック)回数より先行する積極性をより細かく評価できると考えている。

全選手の年間HB率の度数分布は下図のようになる。

HB率=0付近に選手が集中している。最も左にある細い棒はHB率=0の選手のみを表しており、本来棒の幅はゼロに描かれるべきものである。HB率=0の選手は全体の約39%でありHB率<0.05なら約63%にもなる。HBをほとんど取らない選手すなわち追い込み選手が大半を占めているわけである。

積極的な自力が良い

上図でHB率の範囲で分けた選手の集まりごとに、HB率と評価値の平均を算出してそれをプロットしてみる。ただしHB率>0.8の領域は人数が少ないので1つにまとめた。

全体的にHB率と評価値は正の相関があるようだ。HB率<0.1とHB率>0.4では明らかにHB率が高い方が良い評価値になっている。自力選手の方が追い込み選手より成績が良いことを示している。

逃捲率

今度は決まり手から選手を分類してみる。連に絡んだときの決まり手は、逃げ、捲り、差し、マークと4つあるが、逃げまたは捲りで連対したレース数を全ての連対したレース数で除したものを逃捲率と呼ぶことにする。例えば、逃捲差ク=0,2,3,5なら逃捲率=(0+2)/(0+2+3+5)=0.2となる。

年間で10回以上連対した選手(2896名)の逃捲率の度数分布は下図のようになる。

最も左にある細い棒は逃捲率=0の選手のみを表している。逃捲率が0と1.0に近付くほど多くなり0.5近くで少なくなっている。これは選手が概ね追い込みと自力に分かれていることを示している。0.5付近の自在型は比較的数が少ない。

自在は不利?

範囲分けした逃捲率と評価値の平均をプロットする。

全体に逃捲率と評価値は緩やかな正の相関があるように見えるが、最左の逃捲率=0の点を無視すると逃捲率=0.5付近を底としたV字型とも見える。この「逃捲率=0の点を除けばV字型」という傾向は他の年度でも見られる。

V字の左端は典型的な追い込みで右端は典型的な自力であるから、脚質に一貫性があり徹底している方が、自在に何でもする選手より成績が良い傾向にあると言える。また、V字の左端と逃捲率=0の評価値に大きなギャップがあることは、年間1回も捲りを決められないような選手は追い込みとしても良い成績を残しにくいことを示しているのかもしれない。