競輪選手の成績の評価値

競輪の予想をやるのに、まず各選手の強さを順位付けしたいと思うだろう。しかる後、ライン構成からレース展開を考えて選手の心理を加味してとか発展していく。選手が持っている固有の、あるいは調子も含めた強さ、能力の把握が予想の基本だと考えて良いだろう。その選手の強さをどうやって評価するかだが、直近の成績から判断するのが自然でありもっとも有力だと思える。ということで、ある選手のある期間の競走成績が与えられたとき、その成績を評価して一つの数値を得るという問題を考える。

競走得点

成績評価のシステムとしては、競走得点がある。これは選手の級班を決めるために公式に行われているものであって、投票者が予想を行うために設計されたものではないが、これがどうなっているか調べてみる。

評価する対象の期間にn個レース出走し、レースiの概定番組-種目をk[i]、レースiの着順をj[i]とするとき、平均競走得点Eは、

E = Σi=1~n { eb(k[i]) + eo(j[i]) } / n  ... (1)式
eo(j) = 2 * (5 - j)

となる。ここで、eb(k)は、概定番組-種目kに対応したあらかじめ決められた定数である。

概定番組というのは、優勝者を決める一連のトーナメントのことで、A級7レース3日制、記念などがある。種目とは、予選、決勝、一般などの各レースで、特選のように何日目に行われるかによって区別されるものもある。詳しくは、競輪資料室|KEIRIN.JPを参照されたい。eb(概定番組-種目)で決められている得点は、上位のレースほど高くなっている。具体的な値は上記リンク先に全て記されている。

なお、失格したり棄権したらどうなるとかは正式には細かく決められているが、ここでは単純に着が得られなかったレースは無視することにする。

競走得点の構造

eo()で1着から9着までを等間隔に点を与えて着順を評価している。しかし、同じ着順でもそれがきついメンバかそうでないかで価値が違うはずだ。そこでそれを評価するためにeb()がある。同じ概定番組-種目に属するレースでは大体同じくらいの強さメンバになるだろうから、その強さを予め与えておくのである。

競走得点は(1)式にあるように、着順を評価するeo()とレースのメンバー強弱を評価するeb()の2つの要素から成っていて、それを完全に2つに分けて和を取るという非常に単純な構造になっている。

競走得点の問題点

この競走得点を予想における選手の強さの評価値としてそのまま使えるだろうか。直近の点数ならただでもらえる出走表にも書いてあるので都合が良い。しかし、まずい点があるように思える。

まず、eo()にあるように着順の評価が等間隔で良いかという疑問がある。例えば、まわれる所をまわって流れ込みの競走に終止する大きな着は取らないが連に絡むこともめったにないマーク選手Aと、一発屋でそこそこ頭を取るが頻繁に8、9着になる選手Bがいたとき、車券的にはBの方が重要な選手であるにもかかわらず、Aの方の評価が高くなってしまう。これを改善するには、上位の着ほど大きな点を与え5着以下には差を付けないようにすれば良い。例えば、1着=6点、2着=4点、3着=2点、4着=1点、5-9着=0点とする。

eb()で定められている値が適切であるかという問題もある。例えば、ほとんどの概定番組で、初日特選の点が準決の点より低く設定されている。しかし初日特選の方がメンバはきつく、実際調べてみると初日特選の方が着が取りにくいことが分かる。

競走得点システムを元にした新しい評価値

上で挙げた点を改善すれば予想に適した成績評価値が得られると考えてやってみた。多数のレース結果とそのメンバの成績を用意して、その各レースの評価値の順位1位の選手の勝率がなるべく大きくなることを目標にする。

計算式は(1)式をそのまま使い、eb()、eo()の返す値を適切に定める。eb()の引数となる概定番組-種目の組み合わせは500くらいある。eo()は1-9着に対応して9つの点を決める。与えられた数万レースのデータについて評価順位1位の勝率を最大化するように500余りのパラメタを最適化することになる。しかし「勝率を最大化」というのがむずかしくていろいろ調べたがその方法がよく分からない。結局あきらめて、別のそれらしく扱いやすい条件を設定してパラメタを決定した。

得られた新しい成績評価値はまずまず満足できるものになった。各レースにおける選手の直近4ヶ月程度の成績を評価してその順位1位の選手の勝率を求めると、2007年で約33.0%となった。競走得点1位の勝率は約29.4%なので3.6ポイント、率にして33.0/29.4=1.12倍の改善となる。2車単のオッズでもっとも1着で売れている選手の勝率は約37.4%であって、全投票者が全ての要素を考慮に入れた予想の総意と考えられるこの値との差は4.4ポイントである。

コメント

2年余り前からこの評価値を使って実際に予想をしている。他の方法でも評価値作成をやってみたがこれを明らかに越えるものはできなかった。競走得点の計算式(1)は単純ながら優秀だと思う。