3連単で資金の回転が悪くなるか?

3連単は売上げに悪い影響を与えているという主張の根拠として最もありそうなのが、客の資金の回転が悪くなるというものだ。高配当を当てて大きく儲けた人が大勝ちしたので帰ってしまい、場から大金が消えて全体の売上げが伸びないという現象が起こっている恐れがある。ただし、3連単の発売制限はすべきでない - 競輪雑考でも書いたが実際どうなのかは実証がなければ分からない。そこで競輪見太郎のデータを元に自分で分析してみることにした。

レースごとの売上げ分布

競輪の1日に行われるレースにおいてはレースが進む程売上げが多くなり、メインである最終レースの売上げが最も多くなる。レース番号が大きい程売上げが多くなる傾向にあるわけだ。もし3連単で資金の回転が悪くなるなら、前半に比べて後のレースの売上げの伸びが小さくなることになる。1日の売上げのうち何%がそのレースによって占められるかを示すレースごとの売上げ割合の分布を考えると、3連単が売られる競輪場ではそうでない場に比べて、後のレースでの売上げ割合が小さくなると考えられる。図でかくと下のような感じだ。

こういうことが3連単の発売のある/なしで実際に起こっているかを調べる。

2002,2003年のデータ

今は全てのレースで3連単が売られているので、まだ全ての場で3連単が売られてなかった2002,2003年のデータを調べる。レースごとの売上げはその種目に大きく左右される。例えば同じ第10レースでも準決勝と決勝では決勝の方が多くなるし、負け戦は勝ち上がりより売れない傾向がある。この性質の影響を無くすため、同一の概定番組のレースのみを集めて比べることにした。この時期最も多く行われたA級10R制の102A96、102A98のレースのデータを使うことにした。この概定番組は通常他の概定と組み合わせて行われないので都合が良い。ただし一部国際競輪と合わせて12Rで行われた開催が少数あったのでこれらは除外した。また、川崎では最終3日目の決勝が10Rでなく9Rに行われるため、川崎の3日目のレースは除外した。

A級10R制の売上げ分布

対象となるレースで3連単を発売していないレースは14310個レースあり、発売しているレースは20790個レースあった。それぞれのグループに対し、1Rから10Rに分けて売上げを集計し全売上げで割って割合を算出した。この売上げは両者とも発売している全ての賭け式の売上げの合計である。結果は下の表のようになる。

レース番号 売上げ割合
3連単なし(A)
売上げ割合
3連単あり(B)
差(B-A)
1 3.73 3.90 0.17
2 4.46 4.64 0.18
3 5.64 5.82 0.18
4 6.72 6.99 0.27
5 8.25 8.46 0.21
6 9.66 9.70 0.04
7 11.28 11.34 0.06
8 13.38 13.33 -0.05
9 14.81 14.64 -0.17
10 22.06 21.19 -0.87
(単位:%)

売上げ割合をプロットする。

分布を示すグラフの形状は3連単の発売のある/なしでほとんど同じに見える。大きな差はないと言える。詳しく見るために3連単あり/なしの割合の差をプロットしてみる。

値そのものは小さいが、3連単ありはレースが進むにつれて売上げの伸びが3連単なしに比べて小さくなっていくことが分かる。これは回転が悪くなった場合の特徴である。

3連単ありの分布は資金の回転が悪くなったことを示すようにわずかにずれることが分かった。しかしそのずれは非常に小さく売上げ全体に与える影響も非常に小さい。表より8,9,10Rで計1.09ポイント売上げの割合を落としているが、これがもし全て勝ち逃げで場からなくなった金による影響だとしても、全売上げの1.09%が減少したに過ぎない。

以上より、3連単で資金の回転が悪くなって売上げが減少するとは言えない。そのようなことがあったとしてもその影響は非常に小さい。