公営競技の年度売上げの推移

1989年度から2008年度までの20年間の各公営競技の年度売上げを調べ、その時間推移をグラフにしてみた。

元にした資料

宇都宮市のサイト宇都宮市公営競技運営調査専門委員会で公開されている会議の資料(pdf)に1989年度から2002年度までの各公営競技の売上げが記載されている。

東京23区の特別区協議会のサイトで公開されている広報誌「区政会館だより」No197-15面(pdf)No209-15面(pdf)No221-15面(pdf)に2004年度から2007年度までの各公営競技の売上げが記載されている。

その他、web上を検索して、各競技の団体のプレスリリースを元にしたニュース記事などを参考にした。

年度ごとの売上げ

(単位:億円)
年度 競輪 中央競馬 地方競馬 競艇 オート
1989 16852 25545 8490 19588 3020
1990 18846 30984 9493 21394 3352
1991 19553 34338 9862 22137 3497
1992 18721 36138 8881 20826 3394
1993 17544 37454 8059 19585 3076
1994 16444 38065 7320 18384 2870
1995 16144 37666 7141 18432 2701
1996 15672 39862 6949 18038 2675
1997 15381 40006 7070 17316 2458
1998 14497 38012 6577 15961 2130
1999 13553 36572 6230 14706 2015
2000 12371 34347 5560 13347 1856
2001 11709 32586 5221 12811 1688
2002 10464 31334 4903 11990 1476
2003 9831 30114 4447 10758 1270
2004 9150 29131 3861 9837 1130
2005 8774 28855 3690 9743 1131
2006 8610 28158 3760 9703 1098
2007 8400 27600 3804 10075 1091
2008 7913 27502 3757 9772 1049

年度は4月-3月の期間で、売上げで1億円に満たない部分は切り捨てた。2008年の中央競馬だけ4月-3月の売上げが見つけられなかったので、2008年1月-12月の値をかわりに入れてある。私のミスや勘違いで間違いのある恐れがある。もしそれに気がつかれた方はコメントで教えてもらえるとうれしい。

上の表をもとに売上げの時間推移をプロットすると以下になる。


売上げ減少の要因

グラフを見てまず感じるのが、どの競技も売上げをずいぶん落としたなあということだ。この業界も不景気である。そして、売上げ減少の傾向は長期に渡って続いている。

次に見て取れるのは、中央競馬とその他の競技で変化の様子が異なり,さらにその他の競技はお互いに非常に似た曲線を描いて変化しているということだ。ここに注目して分析を進める。以下では中央競馬以外の競技を地方4競技と呼ぶことにしよう。

中央競馬と地方4競技で売上げの変化が違っているのは、売上げに影響を与える要因に中央競馬と地方4競技では異なるものがあるからだと考えられる。地方4競技は1991年をピークにして以降売上げを減少させていくが、中央競馬は1997年頃まで逆に増加させている。これは中央競馬がこの期間、売上げを増加させる何らかの要因があったのに対し、地方4競技にはその要因が無かったということになる。例えば、(実際そうだかは知らないが)新規客を獲得する強力な宣伝の能力を中央競馬は持っていたが、地方4競技は持っていなかった、という具合に。

これとは反対に、地方4競技間では売上げの変化の様子が良く似ている。これは売上げに影響を与える支配的な要因が、地方4競技に共通していることを示している。地方4競技には売上げを下げる同じ原因があって、それ故に売上げの下がり方も同じようになると考えるわけだ。もしそうでなくて、地方4競技にはそれぞれ別に売上げを下げる固有の主要な要因があるのだが、偶然にも売上げが同じように変化して、それが偶然にも20年間ずっと続いている、なんて考えるのは明らかにおかしい。

地方4競技に共通する売上げを低下させた要因というのは、例えば、4競技の顧客は共通する部分が多く彼らの所得が減少したから、だとか、身近なギャンブルであるパチンコが台頭して来た、などが考えられる。もちろん実際そうであるかは詳しく分析してみないと分からない。しかし、4競技共通の要因となるとおそらくは外部環境の変化が要因であると思う。

以上の分析によれば、巷間でよく言われる「競輪は初心者がとっつきにくいため新たにやる人が減った」というのは、売上げ減少の主要な要因にはなり得ない。これは競輪についてだけのことであり、4競技共通の要因ではないからだ。実際そうなのかはよく検討しないと分からないが、仮りにこの命題が真実であるとしてもである。全く同じ理由で、「レースの質が昔より落ちて面白くなくなった」、「中野浩一のようなスターがいなくなった」、「横の競走がやりにくいルール/制度になってレースの迫力がなくなった」、「競輪道なんて理解しがたいものが存在するのが悪い」、「競輪道が廃れてきたのが悪い」「記念を3日制2節から4日制1節に変えたのが悪い」、「大量落車で客離れ」などは売上げ減少の主要な要因ではない。これらを議論するのはもちろん有意義なことだと思うが、「競輪の××が悪いから売上げが大きく落ちた」という言説に対しては批判の目を持って吟味する必要があるだろう。

売上げ減少に底打ちか?

グラフの最近数年の変化は減少傾向が底を打ったようにも見える。これをはっきり見るため、売上げの前年度に対する増加率を算出して下にプロットする。

地方4競技はどれも2005年からマイナス幅が縮小しているのが分かる。ただ、2008年は世界不況の影響か少し落ち込んでいて予断はできない。また、2008年の競輪の落ち込みが大きいのは開催日数を大きく削減した影響があるようだ。

楽観はできないが、近く底打ちしそうな感じはする。