3連単と2車単のオッズによる回収率

あるレースにおいて配当倍率が10倍から20倍を付けている目を全て同額づつ買う、という買い方を多数のレースで、例えば1年に行われる全レースでやったとするとトータルの回収率はどうなるだろうか。普通に考えたら0.75近辺になるが。100倍から110倍の目ならどうだろう。違った値になるのか。以下にこれを調べてみる。

集計

用意するデータは2006-2007年の2年間に行われて成立した全64783レースの結果と確定オッズである。ある賭け式である範囲の配当倍率の目を対象の全レースで1枚づつ買ったときの票数をvとする。そのとき当たった目の配当倍率の合計をHとすると、回収率はH/vとなる。これは同着と特払いの場合も考慮に入れている。配当倍率の範囲を変えて集計すると以下のようになる。

# 3連単
log(倍率範囲) 平均倍率 回収率  票数
 -inf   1.05     8.62  0.823    33436
 1.05   1.25    14.75  0.824    73125
 1.25   1.45    23.22  0.759   164869
 1.45   1.65    36.62  0.754   326802
 1.65   1.85    57.78  0.760   565963
 1.85   2.05    91.36  0.745   892632
 2.05   2.25   144.57  0.743  1328986
 2.25   2.45   228.49  0.764  1863663
 2.45   2.65   361.51  0.749  2475490
 2.65   2.85   571.94  0.738  3140788
 2.85   3.05   904.43  0.693  3782959
 3.05   3.25  1427.63  0.682  4196443
 3.25   3.45  2252.42  0.647  4181293
 3.45   3.65  3547.77  0.592  3608400
 3.65   3.85  5577.30  0.621  2585599
 3.85   4.05  8765.86  0.664  1500324
 4.05   4.25 13778.60  0.694   686044
 4.25    inf 25770.28  1.007   361578

# 2車単
log(倍率範囲) 平均倍率 回収率  票数
 -inf   0.65     3.50  0.769    26042
 0.65   0.85     5.81  0.788    58357
 0.85   1.05     9.13  0.793    97196
 1.05   1.25    14.55  0.774   170153
 1.25   1.45    22.87  0.765   263189
 1.45   1.65    36.14  0.742   365577
 1.65   1.85    57.13  0.726   454734
 1.85   2.05    90.35  0.695   537973
 2.05   2.25   143.03  0.674   599139
 2.25   2.45   225.61  0.647   618555
 2.45   2.65   355.34  0.560   556196
 2.65   2.85   558.90  0.518   417923
 2.85   3.05   878.24  0.505   255660
 3.05   3.25  1379.05  0.458   122511
 3.25    inf  2865.08  0.510    75525

配当倍率はかなり広く分布するので普通に等間隔で範囲分けすると高配当の領域がスカスカになってしまう。よって対数を取ったものの範囲で分けている。例えば、

3.45   3.65  3547.77  0.592  3608400

とは、10^3.45=2818.4倍以上、10^3.65=4466.8倍未満の範囲の目を全て買うと3608400票になり、それらの目の配当倍率の平均は3547.77倍で回収率は0.592になることを表している。

上表の各範囲の平均配当倍率と回収率をプロットすると図1になる。

図1

横軸は対数目盛を取っている。

配当倍率が大 -> 回収率が小

どちらの賭け式の曲線も右下がり、すなわち配当倍率が上がる程低い回収率になって行き、右端で回収率が跳ねるように上がっている。まず右端の回収率の上昇であるが、これは不安定な性質で重要な意味はないと思われる。この領域の高い配当倍率では的中率が極めて小さいためブレが大きい。少なくともその解釈は保留ということで良いだろう。

重要なのは、配当倍率が大きい程回収率が小さくなる性質だ*1。もし投票者が全員十分賢くて儲けるために合理的に投票したなら、買う車券の配当に関わらず回収率は0.75になるはずである。

このような性質が現れる原因としてまず考えられるのは、配当倍率が大きいすなわち的中確率があまりに小さくなるとそれを正しく評価できない人が多い、という仮説である。例えば、確率1/5と2/5ではその違いを実感を持って認識できるが、1/200と1/400ではどれくらい違うのか良く分からない。人間は小さな確率をより大きいと錯覚してしまう性質があるのかもしれない。

ただし、この説では図1において3連単と2車単の曲線に解離があることの説明がつかない。例えば、配当倍率が1000倍のとき2車単では回収率が0.5程度なのに3連単では20ポイントほど大きい0.7もの回収率がある。どちらの車券も同じくらいの的中率なのに大きな差がある。

次に考えられるのが、高い配当の車券は、その期待される回収率に関係なく、ただ配当が高いというだけで買いたくなるという心理である。要するにこれは、莫大な当せん金の前には低い回収率などほとんど考慮されない宝くじを買う心理と同じである。

この心理をもとに3連単と2車単の違いを考えてみる。3連単では高配当の目が数多くあるのに対し、2車単は比較的少ない。だから2車単では高配当を求める人がその数少ない高配当の目に集中して投票するので、過剰に買われる割合が3連単より大きくなってしまう。3連単に比較して2車単は高配当車券の供給が乏しいので割高になる度合が大きいというわけだ。

車券作戦上の考察

図1において回収率が小さくなるような配当倍率の車券は買わないという方針が有効だと思う。買わないとまでいかなくても、高配当車券は実質的に控除率が上がっていると認識することが必要だ。そういう不利をはねのけても利益を出せると確信できる場合以外は見送りが妥当だろう。

3連単なら、600倍くらいまでは回収率0.75以上を維持している。この範囲の車券を買ってる分には不利はない。2車単は0.75を切る倍率が低く図1ではちょっと分かりづらいので200倍までの配当の領域を細かく集計してみる。

# 3連単 (200倍まで)
倍率範囲      平均倍率 回収率   票数
  0.00  10.00     7.76  0.838    23403
 10.00  20.00    15.49  0.806   113744
 20.00  30.00    25.16  0.755   167112
 30.00  40.00    35.04  0.754   195767
 40.00  50.00    44.98  0.761   210978
 50.00  60.00    54.96  0.757   216589
 60.00  70.00    64.96  0.761   219110
 70.00  80.00    74.94  0.720   218478
 80.00  90.00    84.93  0.750   216295
 90.00 100.00    94.93  0.768   214421
100.00 110.00   104.94  0.747   212182
110.00 120.00   114.94  0.726   210459
120.00 130.00   124.94  0.761   208031
130.00 140.00   134.93  0.762   205092
140.00 150.00   144.93  0.708   203329
150.00 160.00   154.93  0.756   199755
160.00 170.00   164.94  0.747   197614
170.00 180.00   174.94  0.754   194059
180.00 190.00   184.94  0.766   192026
190.00 200.00   194.94  0.761   188905

# 2車単 (200倍まで)
倍率範囲      平均倍率 回収率   票数
  0.00  10.00     6.60  0.783   151837
 10.00  20.00    15.06  0.775   257874
 20.00  30.00    24.88  0.760   248599
 30.00  40.00    34.85  0.755   224700
 40.00  50.00    44.84  0.713   200185
 50.00  60.00    54.87  0.744   177786
 60.00  70.00    64.87  0.714   161804
 70.00  80.00    74.86  0.675   148203
 80.00  90.00    84.88  0.713   135371
 90.00 100.00    94.89  0.692   124984
100.00 110.00   104.90  0.702   116554
110.00 120.00   114.90  0.681   108061
120.00 130.00   124.89  0.662   101794
130.00 140.00   134.92  0.717    95565
140.00 150.00   144.89  0.690    90810
150.00 160.00   154.90  0.665    85548
160.00 170.00   164.90  0.691    81335
170.00 180.00   174.90  0.631    77196
180.00 190.00   184.89  0.638    73461
190.00 200.00   194.89  0.698    69245

図1と同様のプロットは、

図2

この図の横軸は普通の線形目盛である。2車単で回収率0.75を維持できるのは約40倍以下である。

*1:でたらめに車券を買ったときの回収率の期待値」でこの性質について触れている。